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医師の2024年問題(3)―宿日直許可

ある民間病院の事務長さんの悩み

 「先日、地域の病院の事務長会議で〝今後は宿日直許可を受けておいたほうがいいよ〟という意見が出ました。医師の働き方改革の影響のようですが、当院では許可を受けずに当直を行ってきましたが、そもそも当直と宿直のグレーゾーンがよくわかりません。仮に許可申請をしても、不許可になったときに労基署の是正勧告を受けるのではと思うと申請には二の足を踏んでしまうのですが……」

 前回もお話ししましたが、医師に対する「労働時間の通算」の影響は「宿日直体制の維持」に波及しそうです。

 厚労省は、「当直バイトに従事する場合」を通算規定の除外対象としていますが、これは副業先の病院が宿日直許可を受けている(=労働時間にカウントされない)ことが前提となります。また、許可を受けていても、急患対応など、許可基準内の軽度で短時間の業務ではない「宿日直における通常業務」を行った時間は時間外労働となり労働時間の通算対象になります。

 そのため、「労働密度の高い派遣先は選択しない」、「派遣先が宿日直許可を取っているかを確認したうえで、シフトの組み方を検討する」という大学病院も出始めています。

許可基準で最も問われる「勤務の態様」とは?

 ここで、宿日直許可の「許可基準」の実際を詳しく見ていきましょう。

 繰り返しになりますが、医師の当直(宿直・日直)は、救急受け入れが多くて夜勤扱いにしている場合を除き、宿日直許可を受けていれば労働時間にカウントされず、賃金も通常の3分の1程度支払えばよい特例的な扱いです。

 許可の対象となる勤務の態様は、「常態としてほとんど労働する必要のない勤務」ですが、許可要件の詳細は表のとおりです、これは令和元年7月に改正された「医師、看護師等の宿日直許可基準について」と一般の宿日直の許可要件を整理してまとめたものです。

 このなかで最も重要な要件は、(3)(4)の勤務の態様です。宿日直中の業務が、軽度で短時間の業務のみであれば問題ありませんが、急患対応など突発的な業務の頻度や時間がどれくらいなのかが厳しく問われます。

 しかし、一番の問題は「稀」の数値的な判断基準が無いことです。「本省に照会しても具体的な指針が示されない」(某労基署の監督官)というのが実情です。

 そのため、勤務態様の「頻度」「時間」に対する判断は都道府県により、場合によっては労基署によって微妙に異なります(個人的には〝監督官によっても異なる〟というのが実感)。令和元年の法改正で勤務態様の基準は多少緩和されたとえはいえ、これも都道府県によりかなりの温度差があります。

 そこで、厚労省が公表した「宿日直許可事例」をいくつか見てみましょう。なお、これらの事例は全国の労基署の統一基準とされているわけではありません。

 事例1の場合、「軽度で短時間」の業務であることに加えて、宿日直医とは別に急患対応のための医師が同時間帯に勤務しているため許可要件を満たしたものと思われます。問題は次の事例です。

 事例2のように、輪番日の急患対応の頻度や対応時間の長さの判断が分かれそうなケースは、都道府県によっては許可されない可能性があります。例えば、千葉県の場合は「救急指定病院は許可されない」傾向にあります。

 私の経験上も、二次救急の輪番日であっても、急患受け入れが数か月に1~2回という状況なら許可は下りる可能性がありますが、突発的な業務が20分程度の短時間であっても、月4回の宿直機会ごとに毎回あるとなると〝稀〟ではなく「常態化している」と判断され、不許可とされた事例があります。

宿直は週1回、日直は月1回の「回数」も重要

 次に問われるのは、宿直は週1回、日直は月1回の回数の基準です。医師不足の僻地で月1回を超える日直が許可された事例はありますが(日直はほぼ待機業務であったため)、民間病院でよくある「稼ぎたい」という医師の希望で基準より多くやってもらっているようなケースはまず認められませんので注意してください。

 なお、「申請してみて不許可とされた場合、是正勧告や指導をされるのが怖い」という理由で許可申請を躊躇している病院が多くみられますが、これは〝都市伝説〟と考えてください。年間の救急搬送件数が1000件を超える急性期病院が無謀にも宿日直許可を申請して却下され、そのまま10年が経過――というのが実情です。

 申請する前に、自施設の宿日直勤務の実態が許可基準に合致するか否かを管轄の労基署に必ず相談してください。

カテゴリー: 介護 医療

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