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医師の2024年問題(4)―宿日直許可

 前回もお話ししましたが、宿日直の許可要件については一定の基準が法令で示されているとはいえ、実際の判断については都道府県により、必ずしも一定ではありません。申請をする前に、自施設の宿日直勤務の実態が許可基準に達しているか否かを管轄の労働基準監督署(以下「労基署」)に必ず相談してください。そこで改善事項を指摘されたら、改善をしてから改めて申請するという流れが宿日直許可申請の〝王道〟でもあります。

 あえて言いますと、ローカルな地域の労基署ほど、「この10年間、宿日直許可の申請は受けていない」ことも珍しくはなく、審査する監督官の経験不足が許可の可否に少なからず影響を与えることさえあり得るのです。

医師の宿日直許可に関する申請書類と留意点

 許可要件の詳細は、申請書類の意味を知ることで労基署が「何を求めているのか」が理解しやすいと思います。ちなみに、申請書類の内容は都道府県により若干異なります。

■申請書

「断続的な宿直又は日直勤務許可申請書」(様式第10号)は全国共通様式。都道府県により別添の様式が異なり、千葉県の場合は「断続的宿日直勤務許可申請添付書類」(様式許6-2)と「宿日直勤務者の賃金一覧表」(様式許6-3)を併せて提出しますが、申請書類は千葉労働局のホームページからダウンロードできます。

■添付書類

(1)宿日直日誌(日報)

 宿日直中の勤務態様を確認する、添付書類のなかで最も重要な書類。一般の宿日直業務以外の業務(入院患者対応や急患対応など)の時間数と頻度を確認するため、業務に対応した時間がわかる資料として電子カルテのログ記録を基に作成した資料を求められる場合があります。通常は申請時前3か月分程度を求められます。

 また、二次救急指定を受けている場合は輪番日の「実績」が問われます。救急搬送の回数、患者対応の頻度や時間等が見られますが、例えば、「輪番による当番は3か月に1回、かつ輪番日の救急搬送はほとんどなし」という場合はほぼ問題ありません。

(2)宿日直勤務のシフト表

 許可基準の宿直は週1回、日直は月1回の原則を満たしているかの確認資料として求められます。通常は「申請月の前月1か月分」、都道府県により「予定1か月分」も併せて求められる場合があります。

 回数については、「事業場に勤務する18歳以上の者で法律上宿直又は日直を行いうるすべてのものに宿直又は日直をさせてもなお不足でありかつ勤務の労働密度が低い場合」は基準を超えることが認められていますが、この要件はかなり厳しいですね。

 例えば、僻地の病院で嘱託医(非常勤)の確保が困難な場合に、土日連続した日直勤務(月2回)が許可された事例はありますが、これは日直勤務がほぼ待機業務(患者対応はなし)だったからです。週2回行っていた宿直は労基署の指導により原則どおりに改善しました。

 民間病院でよくある、「稼ぎたい」という医師の希望により、宿直を週2回、日直を月2、3回行っているケースはまず認められないと考えたほうがいいでしょう。

(3)病棟の平面図、宿直室の見取り図と写真

「宿直室」(仮眠室)の場所がわかる図面と宿直室の写真、医師が病棟の巡回を行う場合はその経路がわかるように色をつけます。医師が巡回を行わない場合(夜勤の看護師が行う)は提出を求められない場合もあります。

(4)賃金台帳

 宿日直を行う対象者全員分を提出しますが、通常の賃金額及び時間外割増の支払いの確認資料として求められます。患者対応等、宿日直中に行った突発的な業務には時間外割増の支払い義務があり、それが支払われているかを確認する目的ですが、これもどこまで厳密にチェックするかは都道府県により温度差があるようです。

 割増賃金の取り扱いについては、時間外割増は支払われていないが、勤務の態様が「寝当直」という場合は許可される可能性は高いものの、同時に未払いに対する指導が行われる可能性もあります。

(5)就業規則等

 宿日直の勤務時間及び宿日直手当の算出根拠がわかる確認資料として求められます。

(6)組織図

 提出は必須ではありませんが、診療科が多数ある場合に、診療体制の概要把握の資料として簡易的なものを求められる場合があります。

(7)タイムカード等

 これも提出は必須ではありませんが、所定の終業時刻にちゃんと退勤しているか等の確認資料として求められる場合があります。言い換えれば、宿日直でも〝残業〟をしているケースがあるということです。

 この程度のことはたいした問題ではないのですが、注意したいのは、医師について「出勤簿に押印のみ」という勤怠管理をしている病院です。働き方改革で義務化されている「労働時間の状況の把握」(出勤時刻と退勤時刻の在院時間の記録)を履行していないということで、宿日直の実態が「100%寝当直」であっても、許可を見送られる可能性があることです。

 実際、私が某労基署で、ある精神科病院の宿日直許可申請の相談をした際、「出勤簿に押印のみ」の管理の可否について確認したところ、監督官は頭を抱えながら「せめて出勤簿に出退勤時刻だけでも記入してもらうとか……。あるいは、タイムカード等を導入してから改めて申請されたほうが……」と、申し訳なさそうにおっしゃっていました。

宿日直許可では必須の「実地調査」について

 申請書類に不備がなければ次は監督官による実地調査です。コロナ禍で病院に立ち入ることがはばかれると電話による調査になる場合もあるようですが、原則は実地調査のため、時期をずらして落ち着いてからの調査を提案される可能性が高いでしょう。

 面談の対象者は事務長等の管理部門の責任者と、宿日直につく予定の医師のなかで、調査当日に勤務している医師1、2名。電話で日時調整が行われるため、「H先生は心もとない」、「F先生ならきちんと対応してくれる」というような場合、F先生の勤務日に調整してもらうようにするといいでしょう。

 実地調査の主な内容としては、宿直室の確認、定時巡視コースの確認(通常は監督官が一緒に回る)のほか、面談時に聞かれる事項としては、勤務の態様、宿日直の勤務時間、巡回の回数、業務的な負担、夜間外来の有無(人数)、外来患者からの電話での問い合わせ内容や頻度、死亡患者の件数、その他突発的なもので、どのような対応があるか、宿日直手当の金額(事務担当に確認する場合も)、宿日直の回数、就寝設備等(睡眠時間がちゃんととれているか、宿直室でどのように過ごしているか)と多岐にわたります(あくまで参考として)。

カテゴリー: 介護 医療

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