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医師の2024年問題(2)―副業・兼業

 前回の続き。

 勤務医の副業・兼業先での労働時間を通算して、時間外・休日労働の上限規制を適用する「労働時間の通算」について、通算して適用される規定は以下の3つです。

(1)1週40時間、1日8時間以内(労基法32条)

(2)1か月の時間外労働と休日労働の合計100時間未満(労基法36条6項2号)

(3)時間外労働と休日労働の合計が複数月平均80時間以内(労基法36条6項3号)

 本業と副業を通算して、この上限を超えた部分は時間外労働とされます(令和2年9月1日 基発第0901第3号)。

副業先の確認は「医師の自己申告」の危うさ

 労働時間を通算するとはいえ、厚労省は前出の3号通達において副業・兼業の確認方法は「労働者の自己申告」を原則とするとしているうえ、「労働者からの申告等がなかった場合には労働時間の通算は要せず」(同通達)ともしています。

 副業の状況を医師の「自己申告」とする以上、働き方改革により収入が減少した医師が副業に精を出す流れは進むことが想像されます。実際、「定期アルバイトのコマ数を増やす」「産業医を目指す」という現場の医師の声も聞かれます。医師が真正直に自己申告するとは限りません。

 さらに、医師の副業・兼業は宿日直体制の維持など地域医療体制の確保に直結しているため、他職種と同じような基準で就業規則の兼業禁止規定を適用するわけにもいきません。

 ただ、厚労省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」では、副業先の労働の内容が通算の対象となる場合には、実労働時間等の報告手続き等について各々の使用者と労働者の間で合意しておくことが望ましいとしています。それを受けて「医師の働き方改革の推進に関する検討会」(以下、「検討会」)は、派遣病院、副業先、医師の三者で、それぞれの病院での実労働時間の情報を交換することを合意しておくことを提言しています。

 そもそも「労働時間の通算」の規定については、労基署も積極的に取り締まる問題ではありませんでした。副業はあくまで労働者の都合で行なっているものです。稀に社会保険料の状況から判明する事もありますが、副業先で労災事故に遭いでもしない限り「労働者が黙っていれば会社にはわからない」問題です。以前、労働局の私の上司でもあったあるベテラン監督官の言葉が思い出されます。

「私は通算の問題を取り扱ったことは一度もない。訴えられでもしない限り、あえて踏み込もうとも思わない」

 いずれにしろ、「検討会」の提言は今後の大学病院等の動向に一定の影響を与えます。大学病院など医師を供給する側としては、医師の副業は容認しつつ、届出制・許可制により副業・兼業先の労働時間を事前に、あるいは定期的に申告させる仕組みをつくることで注意喚起するというのが現実的なところではないでしょうか。

 こうした事情を踏まえたうえで、副業先の病院としては、働き方改革で義務化されている労働時間の状況の把握(出勤時刻と退勤時刻の記録)は最低限行い、可能な限り実労働時間を把握できる仕組みづくりを行うとともに、必要に応じて宿日直許可を受けておくなどの対応が求められます。

(3)宿日直許可へつづく

カテゴリー: 介護 医療

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