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退職場面のNG対応とOK対応(3)

after・withコロナ――

ある病棟師長さんの悩み

「有給休暇を30日以上残している職員が、退職時にすべての有給休暇の取得を請求した場合、どんなに業務に支障が出るおそれがあっても、希望どおりに有給休暇を与えなければいけないのは不条理では……」

 退職前の「年休一括消化」の問題は〝定番〟の労務問題ですが、誤った対応をとったがために不要なトラブルを招くケースがあります。「有給休暇の退職前の一括消化は一切認めない」ことを〝看護部ルール〟としている職場も実際にありますが、間違いなくトラブルのもとです。

有給休暇の「退職前一括消化」の対応策

 退職の場面の有給休暇の取り扱いについて、職員の退職日を超えて時季変更権は行使できません。「別の日にしてほしい」という「別の日」が退職によって存在しないからです。そのため、退職日までの全労働日について年休を請求してきた場合、「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当したとしても、時季変更権は行使できないことになります。

 退職日までの未消化年休をすべて請求された場合の実務上の対応策は、職員の要望どおりに休暇を与える方法以外には次の2つの方法しかありません。

(1)本人と相談して退職日を遅らせる

 引き継ぎ等に必要な日数分勤務してもらい、退職日を遅らせる方法。病院の実情を十分に説明し、本人の良心に訴えるしかありません。

(2)引き継ぎをさせた上で未消化分を買い上げる

 退職日は変更せずに、引き継ぎ等に必要な日数分勤務してもらう方法。その上で消化できなかった日数分は買い上げます。ただし、買い上げを強要してはいけません。この場合、就業規則に規定があれば、規定に基づいて引き継ぎ等の残務処理をするよう求めます。

 とはいえ、既に転職先が決まっているときや、職場に大いに不満があって退職するような場合は何を言っても時間の無駄です。本人が辞めることで人手の問題で困りそうなら、ほかの部署の協力を得て対応すべきです。本人の態度次第では「辞める人間」と割り切ることのほうが得策です。

看護職場の〝裏ルール〟は必要か?

 退職前の年休一括消化の問題は、看護職場では業務の引き継ぎよりも「シフトが組めない」ことのほうが痛手の場合があります。表向きは(1)(2)のような対応をとっていたとしても、実は、表には出せない〝看護部ルール〟(裏ルール)を運用しているケースが散見されます。

 例えば、交流のある都内の某急性期病院の人事総務担当者から聞いた話ですが、この病院の看護部で今現在も運用されている〝裏ルール〟には開いた口が塞がりません。

 この看護部では、退職する職員が有給休暇を一括請求した場合、

「1か月80時間の労働をしたら10日付与する」

 という看護部独特のルールがあります。このルール、一部の看護管理者を除いて看護職員には周知されていません。実際に、3月末に退職予定の看護師が20日の有給休暇を一括消化するためには4月、5月にそれぞれ最低10日働かなければならないと告げられ、仕方なく退職日を5月末に延ばしたケースがありました。

 退職前に初めて裏ルールを知り、そんなルールは関係ないと権利を行使して辞めていく看護師もいますが、次の転職先が決まっていない、生真面目な看護師のなかには応じる人もいるわけです。

「80時間ルール」を設けた背景には、懲罰的な意味合いもあるようですが(これすら??)、退職前の一括消化でシフトが組めず業務が回らなくなることを避けたいという事情があります。しかし、仮に就業規則に規定されていても、当然ながらこのルールに法的効力はなく、訓示的なローカルルールでしかありません。

 急性期病院の看護職場ということを考慮するれば、「一括請求するなら一定時間(日数)働いて」という意図は理解できなくもありません。しかし、そうであるのなら、シフト組みに最低1か月以上の余裕をみて退職の申し出を「3か月前」と規定・周知しておくほうがまだ現実的だと考えます。

カテゴリー: 介護 医療

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