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続・医師の働き方改革(3)

ある民間急性期病院の事務長さんの悩み

「先日、大学病院の関係者から「今後は当直の労働密度の高い派遣先に勤務医を出さないことになるかもしれません」と聞いた。労働時間の通算に関係しているとのことだったが、どういうことか? 当院にも関係があるのか……」

「労働時間の通算」は兼業先の宿日直体制にも影響大

 労働基準法第38 条第1項では、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と定めており、これを「労働時間の通算」と言います。

 これはつまり、時間外労働の上限規制が適用される労働者については、副業・兼業先の労働時間も含めて、時間外・休日労働が上限を下回っている必要があるということです。そのため、勤務医師を派遣する大学病院は、当該勤務医師の「自院での労働時間」について自院での36 協定により定めた時間を超えないようにする義務があるほか、「自院での労働時間」と、当該勤務医師の自己申告等により把握した「副業・兼業先での労働時間」も通算した上で、時間外・休日労働の上限を超えないようにする義務があります。

 2024年4月から医師に適用される時間外労働の上限規制においては、大学病院の勤務医師が、勤務先では時間外・休日労働は年960 時間以内であるものの、兼業先(民間病院等)での労働時間を通算すると年960 時間を超過することがあるため、これを通算して時間外・休日労働の上限を年1,860時間とする「連携B水準」を設けて、地域の医療提供体制を確保するために必要な役割を担う医療機関を指定して適用するとしています。

 医師の労働時間の通算規定は、「宿日直体制の維持」に最も影響します。厚労省は、「当直バイトに従事する場合」を通算規定の除外対象としていますが、これは兼業先の病院が宿日直許可を取っていることが前提となります。労働基準法に定められた宿日直勤務であれば労働時間にカウントされませんが、「許可のない宿直の場合には労働時間として把握・管理を行うこと」(令和元年7月1 日基発0701 第8号)とされています。また、許可を取っていても、急患に対する診療等「宿日直における通常業務」を行った時間は労働時間の通算対象になります。

 そのため、「宿直時の労働密度の高い派遣先は選択しないようにしている」「派遣先が宿日直許可を取っているかを確認したうえで、シフトの組み方を検討する」という大学病院も出始めています。

 こうしたことから、医師の労働時間の通算規定について医療界では反対意見が多数派です。(日本医師会の緊急調査から抜粋)

「当院の常勤医師はほとんど残業はないが、複数医療機関に勤務する医師の労働時間が通算された場合、宿日直体制が維持困難になる」

「兼業を労働時間に組み入れたら大学病院は崩壊します」

 他方、一部には次のような肯定的な意見もあります。

「複数医療機関に勤務する医師の労働時間を通算して管理しなければ、抜け道だらけの「働き方改革」になってしまう」

 規制の着地点は不透明な部分もあることは確かです。しかしいずれにせよ、大学病院等から医師を受け入れる側の病院にとっても、医師の労働時間を把握・管理することはもちろんですが、「許可なし宿日直」を見直す必要にも迫られています。医師の労働時間管理は自院の都合だけで考えればよい時代ではなくなってきているとも言えます。

カテゴリー: 医療

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