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医師以外の「副業・兼業」(1)

ある事務長さんの悩み

「医師の副業は暗黙の了解となっていますが、看護職や介護職など医師以外の職種から〝医師は認められてなぜ他の職種は禁止なのか?〟と副業の要望が一部にあります。最近は働き方改革の影響で副業・兼業を容認する流れにありますが、医療機関ではどこまで認めるべきでしょうか。また、病院職員の副業制度について、法規則等は整備されているのでしょうか」

 働き方改革で政府が促進している「副業・兼業」について、医療界では「労働時間の通算」と併せて主に医師の働き方改革の検討課題として議論されています。(この問題については当ブログの「医師の2024年問題」(1)(2)を参照してください)

 しかし、そもそも「医療・福祉」は副業している人の数が最も多い業種です。「医師は認められてなぜ他職種は禁止なのか?」という声も聞かれるなかで、看護・介護職の副業はこれまでどおり原則禁止とすべきか、認めるべきなのでしょうか。

医師以外の副業は原則禁止、認めても許可制に

 意外に思うかもしれませんが、「医療・福祉」業界は副業している人の数が最も多い業種です。しかも、同じ業種内で副業する人の割合が他業種に比べて高いのが特徴です。

 資格や経験を活かして副業をしている現状がうかがえます。パートの介護職が複数の介護施設を掛け持ちで働いたり、臨床心理士が放課後等デイサービスと精神科クリニックの仕事を掛け持ちしていたり、雇用形態や職種により副業が許容されているケースもあります。

 ただし、医師の副業と他職種の副業を同列に語ることには違和感があります。宿日直体制の維持など、医師の副業は地域医療体制の確保に直結している側面があり、医師と同じようには副業を容認できないことを職員に理解してもらう必要があります。

 厚労省の調査(平成30年)によると、副業・兼業について「許可する予定はない」という企業が75.8%にのぼり、医療機関でも就業規則に兼業禁止規定をおく施設が多いと思います。

「労働時間の通算」の問題に加えて、Wワークによる健康リスクは使用者の安全配慮義務違反に直結します。自施設に対する十分な労務の提供と医療安全の観点からも、医療機関では医師を除いて副業は原則禁止とし、一定程度は認めるとしても、雇用形態や職種、副業の内容により許可制・届出制とすべきだと私は考えます(規定例参照)。

 また、病院職員の副業に関する法規制については、国公立病院に勤務する職員は国家公務員法及び地方行員法で副業が禁止されているほか、管理薬剤師も薬事法により薬局以外の場所で業として薬局の管理・薬事に関する実務に従事することが禁止されています。それ以外の職種、民間病院に勤務する職員については、もっぱら勤務先の就業規則の定めによります。

「労働時間の通算」の問題が 副業禁止の根拠にも

 労働者が勤務時間以外の時間をどのように利用するかは自由であり、職業選択の自由(憲法22条1項)の観点からも、副業は労働者の自由に委ねられています。他方、副業は無条件に認められるものではありません(逆に言うと、理由もなく副業を禁止することはできません)。裁判例から、副業禁止が認められるケースとして次の4点があげられています。

①労務提供上の支障がある場合

②業務上の秘密情報が漏洩する場合

③競業により自社の利益が害される場合

④自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合

 ②③は主に一定以上の役職者について問題になりやすく、看護・介護職の副業はもっぱら①のWワークによる健康リスク(=医療安全リスク)の観点から、企業の安全配慮義務が問わるために禁止条項とするもので、その根拠規定をしっかりと定めておく必要があります。

 また、副業禁止については、いま医師の働き方改革でも議論されている「労働時間の通算」の問題が見逃せません。

 労働基準法には「労働時間の通算」(法第38条1項)の原則があり、2つの事業場で働いた場合に、本業と副業の労働時間を通算して「1日8時間、1週40時間」の法定労働時間を超えた部分は時間外労働とされます。

 たとえば、1日のうちに、A病院で6時間、B施設で4時間働いた場合に、法定労働時間を超える2時間分の割増賃金の支払い義務があるのは、労働者と「時間的に後で契約した」方となります。同じように、C病院で月曜から金曜まで40時間働いた場合に、土曜日にD施設で6時間働いたとすると、週40時間を超えたD病院の6時間が時間外労働とされます。

 ただ、厚労省は副業先の勤務状況の確認方法は「自己申告」でよいとしているため、職員が申告しなければ表に出ることはありませんし(労災事故が起こって判明するケースも)、厳格に副業先の労働時間を管理しようとすると、許可制・届出制にするなど、自施設で独自に確認する仕組みをつくる必要があります。

 下のサンプルのような事項程度は職員から報告させることで、「労働時間の通算の対象になり得るため副業は認められない」と職員に説明することもできます。

 なお、就業規則に兼業禁止規定があったとしても、無許可で副業した職員を懲戒解雇できるわけではありません。副業したことによる影響度にもよりますが、懲罰を課すとしても最も軽い戒告程度にとどめておくべきではないでしょうか。

カテゴリー: 介護 医療

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