ある事務長さんからのご相談
「2年前に出生時育児休業制度が始まり、当院でも男性職員数名が育児休業を取得しました。子育て支援策はそれなりに講じてきましたが、今回、また育児・介護休業法が改正されるようです。法改正を踏まえて、病院としてはどのような対応をとればいいでしょうか」
改正育介法 7つの改正点のうち6つが義務化
改正育児・介護休業法が2024年5月31日に公布されました。今回の改正では、子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置が拡充されています(図表1)。7つの改正点のうち6項目が義務化されるため、確実に対応できるよう準備を進める必要があります。
対象となる子の年齢の拡充については、②所定外労働の制限(残業免除)が「3歳に満たない子」から「小学校就学前の子」に、④子の看護休暇が「小学校就学の始期に達するまで」から「小学校3年生終了まで」にそれぞれ延長されます。
②④については、どこの病院も法令に基づいて実施しているため、子の対象年齢が多少拡張されても大きな支障はないという声が多数派です。むしろ課題となるのは、①柔軟な働き方を実現するための措置について、いかに効果的に導入するか。もう一つは、各種措置について、「労働者への個別周知・意向確認」をどう効果的に実施するかという点です。
休暇制度を新設するか、子の対象年齢を拡張するか
①柔軟な働き方を実現するための措置については、「3歳以上、小学校就学前の子」を養育する労働者を対象に、5つの選択肢のうち2以上の制度導入が義務付けられます。各選択肢の詳細については今後省令で公表される予定です。
1)始業時刻等の変更
2)テレワーク等(月に10日)
3)新たな休暇の付与(年に10日)
4)短時間勤務制度
5)保育施設の設置運営等
病院なので2)は現実的ではありません。5)はすでに運営している施設も多く、措置義務の1つは確保できます。導入しやすそうに見える1)始業時刻等の変更は、勤務時間帯が多岐にわたる看護部では個別対応するとかえって混乱する可能性があります。より効果的に導入するならば、3)新たな休暇の付与と、4)短時間勤務制度ではないかと思います。
3)新たな休暇の付与については、原則時間単位で取得可能な制度として年10日付与が予定されています。今後公表される省令の内容にもよりますが、現状の病院の規定に照らすと、年10日を上限とする「時間単位年休の拡充版」が最も適当ではないかと思われます。ただし、既存の有給休暇とは別に新たな休暇を時間単位で年10日付与するとなると、現場の混乱が予想されます。
4)短時間勤務制度は、現行の育児短時間勤務の拡張が適当でしょうか。現行制度は「3歳未満の子」が対象ですが、改正法の義務対象は「3歳から小学校就学前の子」です。そこで、対象年齢を「0歳から小学校就学前の子」まで拡張した新たな短時間勤務制度として運用することが考えられます。
職員への「個別周知・意向確認」の効果的な実施の仕方
改正点の①、⑤、⑦の各項目で「労働者への個別周知・意向確認」が義務化されます。厚労省は、意向聴取の方法として面談や書面の交付等としていますが、これについても詳細は今後省令で公表されます。この職員への個別周知や意向確認を〝苦手〟としている病院が少なくありません。職員が申し出てきたときだけ個別対応する「行き当たりばったり型」、看護部だけで対応・処理している「看護部任せ型」など、病院の仕組みとして機能していないケースが少なくありません。そこで、職員への面談・書面交付等の仕方の一例を挙げておきます。
2022年4月に施行された改正育児・介護休業法では、出生時育児休業制度の創設(同年10月1日施行)に先立ち、妊娠・出産の申し出をした労働者に対する個別周知・意向確認の措置が義務付けられました。その対応策として、私は顧問先の病院と介護施設向けに『お母さん、お父さんになる職員さんへ』というリーフレットを作成しました(図表2)。
これは妊娠から出産、育児休業までの各段階で利用できる制度の内容のほか、出産時の一時金と手当、育児休業給付金など休業中の経済的支援の内容を休業中の収入イメージと併せてA4(表・裏)にまとめたものです。例えば顧問先病院Dでは、これを各部署に常設してもらい、出産等の該当者が出た場合に、事務長が個別面談でリーフレットを説明しながら詳細な意向確認を行っています。
職員に育児休業等の制度全体を理解してもらうために作成し、現在も継続使用してもらっていますが、職員には「わかりやすい」と好評で、事務長には「説明しやすい」と喜んでいただいています。近々改正法にも対応する内容に改定する予定です。
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