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育介法?「いい加減にして!」事案(1)

Case Study

 2022年4月の「産後パパ育休」の創設、2025年4月・10月と段階的に施行された育児期の柔軟な働き方を実現するための措置や拡充策、労働者の個別周知の義務化など、子育て支援制度は拡充の一途をたどっている。それに伴い人事労務担当の事務負担も増しているなか、権利ばかり主張する労働者に手を焼く事案を取り上げながら、過剰とも思える育児休業・休暇制度に対してどう対処すべきかをあらためて考えたい。

【ケース1】育休中に「引っ越して復職できない」けど育休継続やむなし?

「育休中に引っ越したので復帰できません」と本人から申し出があり、復帰しないことが明らかな職員の育児休業を途中で打ち切りたいという相談は以前から多くあり、育児休業に関する問題のなかでは普遍的な課題でもあります。

労働局の〝お墨付き〟を得て育休継続

 顧問先のA病院でもこんなことがありました。

 育児休業中のベトナム人看護師Bが夫と一緒に他県に引っ越したので職場に戻れないとの連絡があり、病院は「復職の意思なし」と判断し、育児休業の打ちきりを打診し、退職手続きについてBに説明しました。

 受給中の育児休業給付金についてハローワークに確認したところ、「育児休業の継続の可否については労働局に確認してみてください」との返答。その最中、Bから連絡があり、「労働局に相談した。継続したければ期間満了までは継続できるし、会社が育児休業を打ち切ることはできませんと言われた」と、期間満了までの継続を申し出てきた。

〝先回りされた〟ものの、念のため労働局(雇用環境・均等室)に確認したところ、判で押したように次のような回答がありました。

「引っ越しをして復職しないことが明確であっても、本人に継続の意思がある限り期間満了まで育児休業は打ち切れません。育介法は100%労働者に有利にできていますから」

 さらに加えて担当者は、「給付金も出るし、社会保険料も免除されますし、会社としてデメリットはないのでは」

 そういう問題ではない!と行政に言っても無意味なので、事務長と相談し、退職の時期は本人に決めさせることとしましたが、結果的に期間満了の3カ月前くらいになって退職手続きをとることになりました。

看護師が育休中に求人応募してきた

 別の顧問先のC総合病院でも状況的には〝逆〟のケースがありました。

 大阪市内の病院に勤務する看護師が育児休業中にも関わらず、人材紹介会社経由で当院に応募してきました。経歴等に疑問を感じた事務長が紹介会社の担当者を問い詰めたところ「育休中」であることが判明。人材不足の看護部では採用したい意向でしたが、筆者の助言もあり、最終的には事務長の判断で採用を見送ることになりました。おそらく、夫の仕事の都合で転居することは決まっていて、自身も転職先を決めておき、育児休業中か期間満了で退職する算段でしょう。

 大阪の病院のことを思うとなんとも複雑な気持ちになります。育休中の求職活動は労働者目線ではやむを得ない「当たり前のこと」であっても、病院として採用すべき人材か疑問を抱くのも当然のことでしょう。

産休・育休と「復職の意思」の関係

 産前産後休業について労働基準法第65条では、復職の意思と産休の取得の可否について言及はなく、復職の意思に関係なく産休を与えなければいけません。他方、育児休業は復職(雇用の継続)を前提に取得するものです。育児休業の申出に対して拒否できる労働者の範囲も法令で決まっており、労使協定において次のように定めることができます。

(1)入職1年未満の者

(2)申出の日から1年以内(延長の場合は6カ月)に雇用関係が終了することが明らかな者

(3)1週間の所定労働日数が2日以下の者

 転居等で復職の可能性がない者の申出については、(2)の「申出があった日から1年以内に退職する者」に該当し、育児休業を取得することはできません。育児休業給付金についても職場復帰を前提とした制度であるため、育児休業の当初からすでに退職を予定しているのであれば給付金の支給対象となりません。

 しかし、育休途中に状況が変わり退職することになった場合には給付金は支給されます【※解説1】。トラブルになるのはほとんどが後者のケースですが、引っ越し等で復職しないことが決まっていても期間満了間際まで(退職間際まで)病院には伝えないのが実情です。

 結局のところ、育休中に事情が変わり、復職しないと労働者が意思表示した場合であっても、労働者が育児休業の継続を望む限り病院の判断で育児休業を途中で打ち切ることはできないことになります。しかし、実務上は、労働者の了解を得て育児休業を打ち切るケースや、病院の一歩的な判断で打ち切り退職とするケースも実際はあります。

カテゴリー: 介護 医療

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