Case Study
入職6年目の病棟勤務の看護師がある日突然、体調不良を理由に出勤しなくなった。後日、本人との面談の場で、「1か月の休養期間を要する」と書かれた適応障害の診断書が提出された。本人にヒアリングしても、職場の状況を確認しても、ハラスメントや人間関係に問題があったわけでも、長時間労働が続いたわけでもない。病棟異動後のストレスが一因とも考えられたが、これといった原因が思い当たらない。病院としては、静養を第一に考え、復職後の配属先も本人の状態に合わせて配慮することを伝えた。
ところがその直後、電話でのやり取りで「姉」が出てきて「労災じゃないの?」と主張。しかし、病院としては適応障害と業務起因性を安易に認めるわけにはいかない。「病院が労災を認めないなら自分で労災申請を進める」という姉だったが……。
労災認定される可能性が低い、安易に事業主証明はできない場面
突然出勤しなくなった職員が適応障害の診断書を提出し、そのまま休職に突入するケースはよくあります。多くは私傷病休職として扱うと思いますが、なかには労災を主張される場合があります。業務起因性が認められれば労災認定される可能性はありますが、適応障害が労災認定されるには、厚生労働省が定める「認定基準」に基づいて厳密に判断され、そう易々と労災認定はされないのが実情です。
今回の事案は、業務が原因とは考えられない、事実確認ができない、そのため職員の希望どおりに労災の申請をするわけにはいかない。こうしたケースにおいて、病院はどこまで協力しなければならいないか、申請を拒否しても問題はないのか、というケース・スタディです。
欠勤から休職、労災の主張に至った経緯
この職場は、救急搬送件数が地域随一の急性期病院で、病棟によってはかなり忙しい。外科病棟に異動したばかりの入職6年目のK看護師が、2月上旬、子どもの体調不良を理由に欠勤。以後、本人の体調不良を理由に1週間ほど欠勤が続いた後、「メンタルクリニックを受診し、適応障害で1か月の休養が必要と言われたのでお休みさせてください」と、Kから泣きながら連絡が入った。
看護部では、職場の異動時や休職に入るときに職員本人とよく話をすることを心掛けており、今回もKの了解を得て、後日病院で面談することになった。面談は看護部長、副看護部長、病棟師長が同席して行われ、Kの話から次のような事情が確認できた。
・(忙しいからか)異動した職場の雰囲気が悪く、直接誰かに言われてはいないが、自分がいないところで文句を言われているのではないかと考えてしまう。
・異動前よりも残業が増え、家庭のこと(子どもの世話など)に手が回らない状況で、睡眠時間も異動前より少ない。
そこで看護部長は、「いまは休養を第一優先に考えましょう。復帰後の部署についてもKさんの状態に合わせた部署にしましょう」と伝えた。Kからは「今日は来てよかったです。元気が出ました」との発言があった。
また、欠勤した期間を有給休暇とするか、欠勤のままにして傷病手当金を申請するか意向を確認したところ、「姉の意見を聞かないと決められないので、週明けに連絡します」とのことであった。
K本人の話からも、職場の状況等を確認しても、Kへの個人攻撃やいじめなどの事実は確認されず、職場への不満も特に漏らしてはいなかった。ただ、異動先の外科病棟は忙しく、部署全体で残業も多くなっている中で、新部署での人間関係が構築できないストレスもあったのかもしれない。「ふがいない自分を責めるタイプ」と事務部長が言うように、本人の気質も影響しているものと病院側では考えていた。
その後、数日経ってもKからの連絡がないため、師長が連絡したところ姉が出てきて、「労災じゃないの?」と主張された。それを受けて、顧問社労士を交えて病院側で協議したうえで、看護部長からKに対して「病院として労災申請はできない」との方針を伝えた。
そして面談から1週間後、看護部長が連絡したところK本人が出て、「欠勤でお願いします」、「病院が労災を認めないなら自分で労災申請を進めます。労働基準監督署に相談したら、自分たちでも申請可能と言われたので」とのこと。看護部長が言うには、本人の意思ではなく、姉に言わされている感がある。何度かの電話のやり取りでもしきりに「姉が、姉が…」、「姉から報告しろと言われているので…」との発言が多く、本人の意思を確認しても返事が返ってこないということだった。
最後に電話を代わった姉に対して、看護部長から「身体が心配なので、定期受診の結果を連絡してくださいね」と伝えると、「そっとしておいてくれませんか」と言われ、それっきりとなった。
その後、休職期間中の診断書の提出期限になってもKから師長宛に連絡が来ることはなく、音信不通の状態に。就業規則の規定に基づく休職期間の満了日はまだ先だが、病院として、時期が来た本人宛に休職期間満了に係る案内通知を送付する予定でいる
コメント