Case Study
私傷病(変形性膝関節症)で長期休職中の常勤ヘルパーについて、主治医からは「介護職での復職は難しい」との診断を受けて、負担の軽いパートになるか、退職をするかを上司と本人とで話し合い、退職の方向で話は進んでいた。そこへ突然、元反社会的勢力だという内縁の元夫が登場し、「退職ではなく解雇にしろ」、「過去のいじめで顔面麻痺になった。弁護士を使って損害賠償請求する」、「ネットにさらすぞ」と、事務長に対して一方的に電話口で主張。後日、ヘルパー本人と病院側との話し合いの場合において、同席した元夫から金銭を要求されたが……。
職場のハラスメントとカスタマーハラスメントが絡んだ、最近の医療・介護の現場ではけっして珍しくはないトラブルにどう対処すべきか。
過去のパワハラで顔面神経麻痺? 元夫からの金銭要求に毅然と対応
私が関わる某病院で最近起こったトラブルであり、ハラスメントの被害者とされる職員の家族が出てきて病院に金銭を要求してきたという、カスタマーハラスメントの一例です。
●トラブルの発端
正規職員として病棟に勤務するヘルパーAは、変形性膝関節症のため私傷病休職中で、歩行にはほぼ問題はないものの、夜勤など通常業務ができる状態にはなく、主治医からも「介護職での復職は難しい」と言われているとのこと。この病院は「夜勤ができなければパートに」というのが慣例であり、上司である主任と電話で相談し、Aは退職する意向でいた。また、休職期間が長引いていることもあり、社会保険料の本人負担分の支払いも滞っており(※解説1)、「お金がなくて困っている」ということでした。
その後です。Aの内縁の元夫だという男性から主任に電話がかかってきたのは。責任ある立場の者に代われということで事務長が電話対応をしたところ、次のような主張をしてきました。
「退職とするなら解雇にしろ」
離職票の虚偽申告(※解説2)になるのでそれはできないことを事務長が伝えると、
「それぐらいどこの会社でもやっている」と主張。そして、ここで過去のハラスメント問題を持ち出して、
「以前、Sという看護師からのいじめで顔面麻痺になった」
「弁護士を使って損害賠償請求する」
「対応しないならネットにさらす」
と言いたい放題だったようですが、どうやらこの元夫、以前反社会的勢力(別称「ヤクザ」)だったとのこと。そして、「決定権のある者の同席のうえ」との元夫の意向を受け、理事長同席で病院側とA側の話し合いの場を持つことになりました。
●ハラスメントが起こった経緯
病棟主任への聴き取りの結果、ヘルパーAがS看護師から受けた言動や顔面神経麻痺になった経緯は次のようなものでした。
▶2023年某月、ヘルパーAから「顔がおかしくなった」と主任に相談あり。受診したところ顔面神経麻痺と診断され、医師からはストレスが原因と思われると言われたとのこと(※解説3)。
▶Aによると、同僚のS看護師の高圧的な言動(仕事が遅いと言われる、物を投げて渡される等)にストレスを感じていたとのこと(ただし現場を見ている職員はいない)。
▶相談を受けて、翌月のシフトからAとS看護師の勤務が一緒にならないように配慮。夜勤は完全に分離し、早番も概ね分離。S看護師へは主任から態度や言動に気を付けるよう注意・指導した。
▶2024年某月、S看護師の言動にあまり改善が見られないこともあり、病棟異動させたが、その後、S看護師は退職した。
▶Aによると、今も顔面神経麻痺の後遺症が残っているとのこと。(後遺症の診断書あり)
一連の経緯について、当時Aは顔面神経麻痺を理由に休職はしておらず、通常どおり勤務をしていた。主任や師長もS看護師の態度や言動を主任や師長も問題視はしており、S看護師への注意・指導と、病棟異動で対応していた。
後日のA側と病院側の話し合いの場において、元夫は、顔面神経麻痺になる以前に何度か主任に相談した時点でなぜ対応しなかったのかという点を強く主張したが、そうした相談があったことを主任ははっきりとは覚えていない。
※解説1 休職中の職員の社会保険料
・職員が休職中の社会保険料については、職員から病院 が指定した日に毎月振り込んでもらうか、復職後にまとめて支払ってもらうか(分割払いの配慮も)。ただし、復職のできない場合のリスクがある。
・休職中の職員が社会保険料の納付が困難な場合には、「保険料納付の猶予制度」を活用できることも。一定の条件を満たすことで、支払いを一時的に猶予または分割納付することが可能。
※解説2 離職理由の虚偽申告
・離職票に虚偽の記載をした場合、事業主には、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が課される可能性がある(雇用保険法第83条)
・解雇事案でも、本人と話し合いの上、「諭旨退職」にした場合や、特別に自己都合扱いとして退職してもらうようなケースであれば、離職票も「自己都合扱い」とするケースは実務上ある。
【法改正】自己都合退職は、1~3カ月間の給付制限を受けるが、令和7年4月以降に教育訓練を受ける場合、給付制限が解除され、基本手当を受給できるようになった。
※解説3 顔面神経麻痺
・顔がまがった、水が口からこぼれる、口の動きが悪くなるなど、顔の筋肉が動きづらくなる病気で、2割以上に後遺症が残る。
・原因はさまざまだが、一因としてウイルス性の神経麻痺があり、疲れやストレスが原因で免疫力が落ちるとウイルスが神経を傷害して引き起こすとされる。
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