先日、地方の大学病院看護部よりご依頼いただいたZoomによる看護師長を対象にした労務管理研修を実施しました。研修は、午後1時から午後4時30分までの3時間30分、3部構成とし、10分休憩を挟みながら講義&質疑応答(ディスカッション)という流れで行いました。
グループワークをメインとしたワークショップ形式を除いて、対面でもオンラインでも90分~120分の講義を行うことが多いのですが、今回は3時間半の長丁場、しかも半分は質疑応答の時間に費やすという、これまでとは異なるパターンの研修としました。というのも、看護部で実施していただいた看護師長さんたちへの事前アンケートの結果を拝見し、講義時間と同じくらい質疑応答、というよりディスカッションの時間を十分にとったほうがよいと判断したからです。
アンケート結果については、師長さんたちで思いや悩みを共有してもらうため、できるだけ多くの声を講義資料に盛り込みました。労務管理に関して日頃から悩み、もやもやした気持ちを抱えている師長さんたちの思いを議論してもらうために。
「公平な勤務表」とは、なんぞや
講義は次のような3部構成で実施しました。
Part. 1 「休日・休暇のマネジメント」~勤務表づくりで大事なこと
◇60分(講義30分・質疑応答30分)
Part. 2 「労働時間のマネジメント」~時間外の取扱いと時間管理の意識づけ
◇60分(講義30分・質疑応答30分)
Part. 3 「その他の課題」~子育て支援、ハラスメント対応、副業など
◇50分(講義25分・質疑応答25分)
例えば、Part 1「休日・休暇のマネジメント」では、アンケート結果より、「公平な勤務表とは」が主題となり、「休みの不公平感をどう解消するか」、「希望休が重なる、どこまで希望を聞くか」についてディスカッションしました。看護職場では普遍的かつ難しいテーマでもあるのですが、主な意見をピックアップしてみます。
『年休取得に差がある。主張した者が多く取得できる傾向があり、他のスタッフとの差が出てしまう。今現在特にスタッフからの不満はないが平均的に消化できるようにしたい。』
『休み希望で年休や公休を指定してくるスタッフがいる。今は一部のスタッフしかいないため対応可能としていますが、全員となると勤務表作成に支障が出てくるため、どのように対応するのが望ましいのか。年休の考え方、扱い方、スタッフとの交渉の仕方など、考えるヒントとなる知識を得たい。』
『4週8休の中で、8日前後の休み希望を入力してくるスタッフがいる。「権利」と「義務」の話になることが多く「義務」をどこまで強く主張して良いか悩む。』
『仕事へのモチベーションや体調管理のためにもできる限り希望休を叶えたいが、不公平感を感じたり、公平性が保てなくなるのではないかと悩んでいる。例えば、自己の部署経験年数から土日祝日は当直にあたらないことを見越し、月曜日もしくは金曜日に年休を希望し連休とす、特定のスタッフが毎月、土日祝に希望休を入力するなど。』
この病院の看護部では、「休みの希望は3日まで」といった勤務希望の制限を設けていないということなので、師長さんたちがシフトワークで日々ご苦労されている様子が伺えます。
勤務表づくりで大事なことは、まずは患者の安全・安心を守ること。スタッフが身体的にも精神的にも健康な状態で看護実践ができるよう調整し、力量に偏りがないように留意する……。なのですが、正論ばかり伝えてもスタッフのモチベーションは上がりません。とある看護師応援サイトの調査でも、「シフトが出たとき、最初に何をチェックする?」というアンケートで、断トツの1位が「希望が通ているか」(63%)という結果でした。
「みんな平等」は作る側の自己満足?
勤務表作成においてスタッフの希望をとる場合、「休みの希望」をとるケースと「勤務の希望」を取るケースがあります。前者の場合、「休み希望は月2日まで」とし希望は100%通すという看護部もあり、これなら一定の公平感はあります。後者の場合、「夜勤希望も含めて月5日まで(うち休み希望は3日まで)」といった複合型のケースもあります。
休みではなく「勤務の希望」をとる場合であっても、師長さんアンケートにあるように、「土日祝日は当直にあたらないことを見越し、月曜日もしくは金曜日に年休を希望し連休とし、特定のスタッフが毎月、土日祝に希望休を入力する」といったスタッフはどこにでもいます。私の顧問先病院の看護部でも「勤務の希望」をとりますが、「明け+公休」となることを見越して、土日が休みになるように夜勤の希望を入れてくるスタッフもいるようですが、これは仕方のないことです。
勤務表への希望はスタッフそれぞれ。スタッフの年齢やライフスタイルによって勤務に求めることも違います。子育てなどライフステージによって優先すべきものが変わるのですからそれは当然のこと。長期休暇が欲しいスタッフもいれば短期休日の回数増を望むスタッフもいます。土日よりも平日に休みが欲しいスタッフもいて、それぞれのニーズを把握しておくことが大事でしょう。
『「みんな平等」はスタッフの満足ではなく、作る側の自己満足では』。親交のあるとある病院の看護部長さんが以前おしゃっていた言葉を思い出します。
このほか、Part 2「労働時間のマネジメント」では、スタッフへの時間管理の意識づけ、委員会や看護研究、自己研鑽について師長さんたちとディスカッションをしましたが、かなりヘビーな、そして講師としても有意義な3時間半となりました。
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