前回の続き―――。
●元夫の金銭要求の場面
2025年某月。病院の会議室にて、A側と病院側の話し合いが行われました。A側は元夫が同席し、病院側は、理事長、事務長、看護部長、そして顧問社労士である私の4人。
A側が要望する論点は2つ。
①今後どうするか(復職か退職か)
②パワハラによる顔面神経麻痺の補償
①について、理事長と事務長との事前の打ち合わせで、就業規則に基づく普通解雇としてもやむなしの見解で一致していたのですが、話し合いの席上、Aは復職の意向を示したため、4月以降はパートでの復職を目指すことに(4月上旬の現時点で復職の見込みなし)。
元夫が「それで本題ですが……」という②のパワハラ行為と顔面神経麻痺の問題については、A側と病院側は完全に平行線です。
病院としては、Aからの相談を受けて、行為者とされるS看護師への注意・指導、病棟異動などで対処し、パワハラ防止措置義務(※解説4)には取り組んだことを主張。
S看護師の言動とAの顔面神経麻痺の因果関係については、原因や因果関係が分からない段階で責任を認めたり、謝罪をしてはいけない場面。ハラスメント問題で補償等を望むのであれば、労災申請か、労働局に調停を申請するか、弁護士に依頼して裁判を起こすかして第三者の判断を仰ぐべきことを筆者から提言。同席した理事長も「今後のパート勤務についても配慮しているし、やれることは精一杯やっている。これ以上の対応はしない」と、毅然と対応していただきました。
対して元夫は、最初は穏やかな口調でしたが、病院側の毅然とした対応にしびれを切らしたか、徐々に言動がヒートアップし、こちらの目論見通りに金銭を要求してきました(もちろん会議の内容は録音しましたが)
「主任さんに最初に相談したときに手を打ってもらえていたら顔面麻痺にはならなかった。隠ぺいしようしたのではないか」
「裁判は望んではいない。こちらも精神的苦痛を受けているわけで、病院に損害賠償責任はあるのではないか」
「ここで結論を出したほうが、話が大きくならなくていいのではないでしょうか」
「ある程度のもので、この場で和解しましょう、という気持ちになりませんか」
「結局は金銭が絡んでくるんですよ」
「対応していただけないなら、マスコミ各社にファックス流す準備はしていますよ」
(ファックス? ネットにさらすんじゃなかったの……)
これらは金銭要求も含めて脅迫・恐喝の疑いのある言動ですが(※解説5)、病院側の毅然とした対応に、元夫も最後は諦めムード。数日後、元夫から「この件はもう終わりにします」と病院に連絡があったとのことです。元反社会的勢力だったのかもしれませんが、この元夫、あまり賢くないというか、根っからの悪党ではなかったので、あっさりと終焉しましたが……。
ハラスメント問題は「初期対応(初動)」で決まります。主任がAから最初に相談を受けた時点では記憶にないほど些細な問題という認識であったのかもしれませんが、S看護師の言動に問題があったのであれば、最初にAから相談された段階でもう少しきちんと対処していたら結果は違ったかもしれません。ただし、顔面神経麻痺との因果関係は当事者や病院が判断するものではありません。
今回のような脅迫・恐喝まがいの行為で、安易に相手の要求をのむと、何度も同じ要求を繰り返すことがあるため断固拒否することです。そして、謝罪をするにしても、「対象」を明確にして限定的にすること。不快な思いをさせたことに謝罪はしても、正確に原因や状況が把握できていない段階で、病院として非を認めたような発言は絶対にしないことです。
※解説4 パワハラ防止措置義務(労働施策総合推進法)
・2020年6月1日施行(中小企業は2022年4月施行)。雇用管理上講ずべき措置として、事業主に以下のことが義務付けられている
(1)事業主の方針の明確化及び周知・啓発
パワハラに関する方針等を就業規則に定めるなど
(2)相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
相談窓口を設置し、労働者に周知することなど
(3)職場におけるパワハラに関する事後の迅速かつ適切な対応
事実関係の迅速な確認、相談者へのケアや再発防止策を講じるなど
※解説5 脅迫・恐喝等のカスタマーハラスメント
脅迫罪(刑法第222条)
・「ネットでさらすぞ」「殴られたいのか」などと、相手を脅して、恐怖を与えること。ただ し、人を困惑させたり不安感を与えたりする程度のこと、単なるいやがらせは脅迫にはならない。
・実際にネットの書き込みの内容が病院や人の社会的評価を低下させるようなものであれば、名誉毀損罪(刑法230条)にあたる可能性がある。
恐喝罪(刑法第249条)
・脅迫などで相手を怖がらせ、金品を脅し取ること。脅迫罪との違いは「金品の要求があるかないか」。「ネットに悪評を流す」などの揺さぶりをかけたうえで、過剰な見返りや金品の要求をするケースも。
強要罪(刑法第223条)
・脅迫や暴力を用いて、相手に義務のないことをさせる。「土下座」や「謝罪文の提出」なども強要罪になり得る。
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