ある医療法人の事務長からの相談。
「当法人は、病院のほか、介護老人保健施設、デイケアセンター、グループホーム、就労継続支援B型事業所をもち、系列には社会福祉法人(特別養護老人ホーム)があります。病院のベースアップ評価料と同じく悩ましいのが、介護職員の処遇改善加算の問題です。6月から3つの加算が一本化されましたが、それに伴うキャリアパスをどう構築していくか。「形だけあればいい」と言う同業者もいますが、系列の特養ではキャリアパスは形ばかりで人事管理には全く役立っていません。キャリアパスはどのように構築していくのがいいでしょうか」
シンプルでわかりやすく 職員が理解できるものに
介護職員の人材確保をより推進するため、令和6年度に2.5%、令和7年度に2.0%のベースアップへつなげるための施策として、3つに分かれていた介護職員に係る処遇改善加算が6月に一本化されました。新加算はⅠ~Ⅳの4つに区分され、算定要件で最も重要なキャリアパス要件は加算により異なりますが、キャリアパス要件Ⅰ~Ⅲは加算を算定する全ての事業所に関係します(表1・2)。すでに運用している事業所も次の展開を考えて作り変えていく必要もあるでしょう。
そもそもキャリアパスはなぜ必要なのか。短期的には、処遇改善加算(新加算)を満額受給するために必要な要件だからです。そのため、監査でも内容まで問われないから「形だけあればいい」と、ダウンロードしたひな型を加工しただけで、効果的に運用していない事業所が多いのも事実です。中長期的には、本来の目的である、介護職員の資質の向上と、働きがいを醸成するための、職員の定着の促進につなげるためのものです。キャリアパスを人事管理の仕組みづくりとして考えなければ機能はしません。
〝辞めたくなくなる〟環境づくりの重要なツール
介護人材の確保と定着のために改善策を検討する際、「辞める理由をなくす」ことをつい考えますが、それよりも「辞めたくなくなる環境をつくる」ことのほうが大切です。キャリアパスを人事管理制度と位置付けて仕組みをつくることはその環境づくりにつながります。キャリアパスが機能している施設の中には、職員の方から「有効なキャリアパスを作ってほしい」と要望を受けて制度化した施設もあります。職員にとってキャリアパスは「将来の道標」となるものです。
キャリアパス要件Ⅰ~Ⅲを満たすキャリアパス基準の作成手順(セオリー)を表3・4に掲載しました。このほか昇給の仕組みは給与規程に明文化し、できれば人事考課か制度を整備する必要があります(これが医療・介護施設では難しいのですが……)。
キャリアパスを作成・運用していくうえで重要なポイントをいくつか挙げておきます。
●組織図は変えず役割分担を明確にする
キャリアパスを構築する際、最初に階層(職位)を設けますが、いまある組織図を変えるというわけではなく、階層ごとに役割分担を明確にすることを考えます。各職員が求められる役割を明確にし、職員のモチベーションにつながる制度とすることを意識して作成します。上位職の権限を委譲し、「任せられる」ことで人材育成が加速されます。
また、キャリアパスの仕組みが機能するために重要なのが、制度の推進者である「管理職」の存在です。今までは仕事の指示を出すことが管理職の業務の中心であったかもしれませんが、部下をよく理解してマネジメントすることが仕事であることを明確にし、そのためにも管理職向けの内部研修を実施していく必要もあるでしょう。
●キャリアの道筋を明確化する
組織図をある程度変える場合であっても、重要なポストを数多く設定してキャリアのモデルを示すのではなく、一般職員から管理職・チームリーダー層へのキャリアの道筋を明確にして、階層を設定することで、職員が次に目指すものが明確にわかるようにします。また、処遇(給与)への反映も明確化します。等級が上がると同時に昇給額も上がる、職員が頑張って資格を取得し、様々な研修機会を得て、能力を向上させ組織に貢献していくことが、処遇にも反映されることが分かりやすい仕組みにすることです。
そして、キャリアパス構築の重要ポイントで〝壁〟でもあるのが「トップの理解」です。施設長が時間をかけて構築したキャリアパスを理事長に見せたところ「こんなことができるわけがないだろ!」と振り出しに戻った例もあります。トップがキャリアパスを理解しなければ、加算を受給するためだけの「ただの表」で終わります。
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