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古くて新しい問題 病院の「職種間ヒエラルキー」とどう付き合うか
病院のヒエラルキーの問題は、古くて新しい問題です。大学病院の医局でもその傾向は薄れてきているとは聞きますが、その実は定かではありません。ただ、ヒエラルキーは病院の〝企業文化〟ともいえ、表向きはともかく、医師を頂点とした「職種間ヒエラルキー」が歴然としています。医療機関で働く人の意識からもなくなることはないと考えています。まさに、「Withヒエラルキー」がこの問題との付き合い方です。
病院は働く人の多くが国家資格を有する「資格者集団」です。資格を持つ者と持たない者、資格保有者でも指示する立場にある者と指示される者。優越的な立場にある者が何気なく言ったひと言が相手に「ノー」と言えない状況をつくり出すことがあります。
また、医局ほどではないにしろ、看護部でも「徒弟文化」が脈々と受け継がれています。それがプリセプター制度の弊害であったり、「新人なのに残業申請するの?」という意識であったりします。こうしたことがハラスメントの温床になりやすいのが病院組織の特徴でもあります。
職種間で言えば、例えば、医事課と医療職との関係が顕著です。医療事務に国家資格はなく、民間機関が実施する検定試験です。他の専門職と違い資格がなくても業務に就くことができます。立場の弱い(?)医事課は、他職種の事務的な部分など何かと雑用を押し付けられがちです。典型的な事例をひとつ挙げておきましょう。
職員200人余りの急性期病院(100床)では、看護職の処遇改善に比べて医事課の女性事務職員の処遇が置き去りにされています。看護部の月平均残業時間は2時間、有給休暇取得率98%であるのに対して、医事課の月平均残業時間は22時間、有給休暇取得率35%。
これだけなら「利益を生み出さない部門だから仕方がない」と、病院勤務者なら皆あきらめがつくかもしれません。しかし、毎年2、3月の年度末になると看護部の雑用を医事課に押し付けてでも有給休暇を無理やりとるのが看護部の慣習になっていて「医事課の女性陣からの不満がすごい」と総務課長は嘆いていました。
また、こんなケースもありました。千葉県内のあるケアミックス病院(100床)では、総務課長が日頃から病棟に顔を出して、何か困ったことはないか、体調はどうかなど、スタッフに声掛けすることで看護現場とのコミュニケーションに努めています。この総務課長は異業種で管理職まで勤めた人ですが、この病院に転職してきた当初、看護部長と意見が対立した際に言われたのが次の言葉です。
「で、あなたは何の資格を持っているの?」
〝慣習〟が新人に差別意識を植え付ける
看護部内ヒエラルキーの存在も否定できません。
例えば、看護師(国家資格) → 准看護師(都道府県知事免許) → 介護福祉士・ヘルパー(資格なしでも可)という、資格別の階層です。昨年、私の顧問先の病院で〝問題職員〟に退職してもらった件がありましたが、この看護師は日頃からヘルパーを「ヘルパーごときが!」とさげすむような人でした。
パワハラ問題は、加害者に優越的な意識があるところから起こります。医療機関では昔から職場で〝慣習〟として根付いています。しかし、新人で入職する看護師にはヒエラルキーの概念はありません。
新人に先入観はないはずなのですが、先輩看護師の医事課への横柄な言動を目の当たりにしたり、看護師が放射線技師を「スイッチマン」と呼び軽んじる姿などを見たり、そうした差別的な意識が自然と植え付けられていき、それが脈々と受け継がれていきます。
病院組織のヒエラルキーはなくなることはありません。改善しようと思ってできることでもありません。
だからこそ、相手の状況に配慮したうえで仕事をお願いする、急がないときは指示もほどほどにする、ねぎらいの言葉を掛ける……。そんな当たり前のことを心がけて、その姿を後輩に見せていく。日々の「姿勢」が大事だと考えます。
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