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「パワハラ」と呼ばないで(2)

after・withコロナ――

残念ながら多い「被害者にも問題あり」のパワハラ事案

 昨年、私が対応した事例を中心にパワハラ問題の対処方法について考えてみます。

 その前に、パワハラ問題に対して社労士が助言すべきことは、「人対人」のボタンの掛け違いをどう調整するのがよいかという視点です。判例を持ち出して助言するのは弁護士で十分です。パワハラ問題は「勝つか負けるか」の視点で対応するものではない、というのが私の持論です。

 さて、本題です。次のようなケースは、パワハラ問題に拡大してしまうか、日々よくある看護部内のいざこざで終わるか、対応の仕方次第で異なります。

 病棟勤務の准看護師Aが、「数年前から先輩の看護師Bにパワハラを受けている」「謝罪してほしい」と師長に相談してきました。こうした問題の相談窓口となっている事務長が関係スタッフにヒアリングしてみると、次のような構図が見えてきました。

・仕事ができないうえ、謙虚さがなく、スタッフのほぼ全員から嫌われている被害者(男性)

・性格がきつく口調は悪いが、仕事はできて、スタッフからの評判も比較的よい加害者(男性)

 実務上はこうしたケースが多いものです。難しい事案のようですが、実はそうでもないというケースかもしれません。

 Aは、「パワハラを受けている職員がもう1人いる」と主張しますが、それが事実ならば職場秩序のためにもBを容認できないため、最初はBを病棟異動させる方向を考えていました。しかし、Aの(太っている)体型的なことを揶揄しながら厳しく叱責するようなBの発言は認められないとはいえ、Bについて看護部内では「いたってまともな人」という人物評もあります。そこで、事務長面談を次のように進めていきました。

コミュニケーション力能力に長けた人が対応すること

・聞き取り面談は、A→Bの順番で行い、複数人で立ち会い、内容を記録すること。面談対応者は、事務長(女性)、看護部長(男性)、病棟主任(男性)の3名とすること。部門責任者として看護部長には同席してもらうが、話をするの基本的に事務長のみとすること

・この面談は事実確認が目的であるため、Aが訴えたいことを自由に話してもらい、丁寧に聴くこと。間違ってもその場で「あなたにも悪いところがある」「それはパワハラとはいえない」といった趣旨は一切言わないこと。Aの問題点を諭すのは、Bとの面談を終えた次の段階にすべきこと

 事務長を面談対応の中心としたのはコミュニケーション力に優れた女性で、比較的人望もあるためです。こうした問題対応にあたる人選は、職位や立場にこだわらず、職場の風土や人間関係に応じて最適と思われる人が対応に当たるほうが比較的スムーズに解決します。看護部長に人望があれば看護部内で解決できる可能性がありますし、看護部長がダメなら他の人で対応すればいいだけです。

 続いてBとの面談では、「口調はきつかったかもしれないが、あくまで指導のつもり」であったこと、「体型的なことは冗談のつもりで言った」ことなどが確認できました。

 そこで事務長は、Bの気持ちは十分に理解できるが、言動については大人の対応として謝罪してほしいと伝え、Bはその後、Aに謝罪しました。

 これで一件落着にしてはいけません。重要なのはこの後、Aに対しての対応です。

 事務長が再度、Aとふたりきりで話をしました。Bが謝罪をして、病棟を異動すれば済む問題ではないこと(結局、被害者がほかにもいるという話は不確実だった)、Aの普段の言動などについて諭すように事務長が話したところ、口のきき方など自分にも問題があったことは自覚していたようで、素直に進言を聞き入れたようです。

 誤解のないように言いますが、パワハラ問題は、被害者にも問題があるケースが少なくありません。被害者本人にある程度自覚があり、「自分も悪かった」という言葉をうまく引き出すことができれば、この問題はほぼ解決します。

「どう伝わったか」を意識する そこが指導とパワハラの大きな違い

 パワハラの行為者の多くは、自身の言動を「指導のつもりだった」と主張します。しかし、「お前はとろい」「クズ」「辞めちまえ!」といった言動を「指導」と主張させてはいけません。パワハラの行為者にありがちな「口調は悪いが仕事はできる人」という、昭和の熱血上司の出る幕は残念ながらこのご時世ではすいぶんと少なくなりました。

 パワハラ問題を考えるとき、指導する側の姿勢として大事なのは、「何を伝えるか」ではなく、「どう伝わったか」を意識することことです。それが職場での上手なコミュニケーションの取り方であり、管理職のマネジメント力です。パワハラ対策として院内で周知・啓発していく際に伝えるべき大事なポイントです。

カテゴリー: 介護 医療

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