after・withコロナ――
私は開業社労士の傍ら、労働局で労務コンサルタントにも従事しています。コロナ禍での労働相談は、コロナ関連の解雇や雇止め、助成金絡みの内容が多かったのですが、それにも増して相変わらず多いのが「パワハラ問題」です。
私の顧問先の医療・介護施設でも、昨年はコロナ問題と同じくらいパワハラ問題の対応に追われました。そこで、昨年義務化されたパワハラ問題の対応策を数回に分けて取り上げます。
問題を放置したり、うやむやにすることはもう許されない
コロナ禍の昨年6月1日、パワハラ防止義務等を規定した「改正労働施策総合推進法」が施行されました(中小企業は2022年4月から適用)。義務化されたのは、相談窓口の設置や、パワハラ防止について研修などを通じて職員に周知・啓発することです。
罰則を伴う禁止規定ではないですが、事業主が適切な措置を講じていない場合には労働局の指導対象となり、悪質な事例は企業名を公表することができます。労働局による解決制度についても、強制力のない「あっせん」に、セクハラと同様により強制力のある「調停」が追加されました。
今までのように、「そんなことは看護部に任せておけば」と、問題を放置したり、うやむやにしたりすることは許されないということです。
本来のあるべき「指導」の姿が示された
改正法では、「パワハラの定義」が一応は明確化されました。改正前は、パワハラに該当すると思われる行為を「6つの行動類型」として示されていましたが、それぞれの行為について、「この場合はパワハラに当たらない」と否定要素が付加されました(表参照)。要するに、「パワハラ」と「指導」の線引きとなる考え方を示したものですが、院内研修などで、最低限この考え方を周知・啓発していく必要があります。
ただ、実務上はパワハラ行為が明らかに認められるケースよりも対応が難しくなるような気がします。なぜなら、加害者に言い訳できる余地を与えるとともに、被害者に「それはパワハラではない」と定義を示して説明したとしても納得が得られない場面も想定されるからです。
例えば、「身体的な攻撃」について、「殴打、足蹴り、相手に物を投げつける」といった行為はパワハラに該当するが、「誤ってぶつかる」ケースは該当しないとしています。このため、パワハラを指摘された行為者が「わざとではない」と言い逃れできる余地を与えることにもなります。
これは低レベルの話だとしても、例えば、「過小な要求」について、退職に追い込むために職位に見合わない簡単な仕事をさせたり、仕事を与えないというようなケースがありますが、これに対して「能力が低いために、それに見合った業務量にしたまでだ」と主張された場合、果たしてこの主張を否定できるかどうか。
いずれにしろ、「パワハラに該当しないと考えられる例」が追加されたということは「簡単にはパワハラと認められにくくなった」とも言えます。指導する側としては、今回のパワハラの定義を理解したうえで、毅然とした言動をもって指導にあたっていく必要があります。
パワハラ問題に対応するなかで、「パワハラ」という言葉を使えば使うほど、被害者も加害者もより感情的になる傾向があります。被害者がなんでもすぐに「パワハラだ!」と訴えるほど拒絶される傾向が強くなっていきます。こうしたことも、研修を通してすべての職員に周知・啓発していく必要があるでしょう。
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